1.原子力研究委員会

1.1 第165回原子力研究委員会(7月4日:溶接協会)

  特別講演「次世代革新炉開発の技術ロードマップ」
  黒崎 健 氏 (国立大学法人京都大学 複合原子力科学研究所 所長・ 教授)

1.2 第166回原子力研究委員会および見学会(11月19日:九州電力(株)川内原子力発電所)


1.3 次世代革新炉開発の現状と構造・材料への期待(第57回国内シンポジウム)の開催

 (7月24日開催:無料/ハイブリッド開催)

1.4 原子力プラント機器の健全性評価に関する講習会の開催

(12月12日・13日開催:ハイブリッド開催)

2.小委員会

2.1 国際連絡小委員会

2024年4月12日~14日に金沢にて第14回ASINCO(International Workshop on the Integrity of Nuclear Components)国際ワークショップを開催した。原子力機器健全性に関わる幅広い分野からキーノートセッションを含め30件の講演発表があり活発な議論が交わされたことに加え、参加者のみなさんに積極的に交歓を図っていただき、国境と世代を超えた人的交流を大いに深めることができ、成功裡に終えることができた。今回は原子力研究委員会傘下の小委員会を介して講演発表をお願いしたことを受け、時宜を得た最新の課題にスポットを当てた講演が多かった。今後も小委員会と連携した対応を図ることとしたい。

本ワークショップにおける学術的価値の高い論文を選定し、International Journal of Pressure Vessels and Pipingの特集号を公刊すべく、出版社との交渉、選定論文のレビューを進めた。

 第14回原子力機器健全性に関する国際ワークショップ 

(4月12日~14日:石川県金沢市 ANAホリディ・イン金沢スカイ)

2.2 SPN-Ⅱ小委員会
「原子力構造機器の経年化とその関連技術に関する調査研究」
 

2012年度までは、原子力プラント機器の構造健全性、経年劣化に関連する分野の動向を幅広く把握するために、文献抄訳、講演を通した動向調査を進めてきた。さらに、東日本大震災時の福島第一原子力発電所の事故後は、大地震などに代表される過大荷重下での機器やプラントの健全性を評価するための手法の整備や適用の動向をメインの対象とした調査活動を行っている。また、2016年度からは「弾塑性解析に基づく構造健全性評価ガイドライン」の作成を目的として、応力-ひずみ関係式や限界ひずみ評価式に関する検討を進めている。

2023年度は4回の委員会を開催し、昨年度までと同様に、文献抄訳や講演を通じて上記分野の技術動向を調査するとともに、弾塑性解析に基づく構造健全性評価ガイドラインの作成に向けた検討を進めた。体制を以下に示す。

・主 査 :高橋由紀夫((一財)電力中央研究所)

・委 員 :10機関、12名

活動の概要を以下に示す。

(1)講演及び文献による調査

・2回の講演が行われた。「Strain Based Ductile Tearing Simulation Method and Application to Critical Engineering Problems」と題した講演(講師:Korea大・Kim教授)では、開発中の延性破壊予測モデルに関する情報を得た。また、「機械学習による物理サロゲートモデル構築~支配方程式と学習データへの理解~」と題した講演(講師:近畿大・和田教授)では、ニューラルネットワークなどによる機械学習に関する動向を把握した。

・文献調査では7つの論文を調査した。5件はGursonモデルやGTNモデルなどの損傷モデルを用いた延性破壊予測に関する論文、2件は確率論的破壊評価に関する論文であった。

(2)弾塑性解析に基づく構造健全性評価ガイドラインの検討

構造健全性評価ガイドラインへの導入を念頭において、降伏応力、引張強さ、破断伸び、絞りなどの機械的特性を用いた真応力-真ひずみ関係式の整備に加え、応力3軸度とLodeパラメータを用いて局部破壊の発生や損傷の影響を考慮する延性破壊評価法の検討を実施した。

2.3 PFM小委員会
「原子力構造機器信頼性評価への確率論的破壊力学の適用法に関する調査研究」

 我が国における確率論的破壊力学に関する研究は、日本溶接協会および日本機械学会の研究委員会等で30年以上にわたり行われている。維持基準導入など、破壊力学の適用は進んではいるが、まだ、確率論的取り扱いが広く議論されるまでにはいたってはいない。一方、コロナ禍により一般大衆の確率的事象に対する理解度の向上が期待され、地球温暖化およびウクライナ危機に伴う世界的エネルギー状況への不安から、原子力発電への期待が大きくなっていくものと思われる。 このような状況の中、今年度は、確率論的評価法の信頼性を高めること、および適用分野の拡大、さらには解析手法のガイドライン化などを目的として、原子炉重要機器の破壊確率解析、BWR原子炉圧力容器のPFM評価コード整備、PFM解析プラットフォーム整備、社会インフラ診断への適用、および文献調査などの活動を行なった。また、2024年度に東京で開催されるPFMに関する国際会議ISPMNA5に向けて、国内参加者のPFM解析への理解を深めることを目的として、いくつかのイベントを開催することが決定され、その一環として、JAEAが開発したPFM解析コードPASCALに関する特別講演会をハイブリッド形式で実施した。2024年度も上記国際会議開催前にいくつかのイベントを開催する予定である。

2.4 BDBE小委員会
「設計基準外事象の評価と対策に関する調査研究小委員会(BDBE小委員会)」

「設計基準外事象の評価と対策に関する調査研究小委員会(BDBE小委員会)」は、「設計基準外事象(BDBE)」に対する安全性向上に向けた構造・材料分野の考え方を整理し、コンセンサスを醸成することと、それを実現するための新しい技術を調査検討することを目的として活動している。最終的には、「設計基準外事象(BDBE)」対する評価と対策に関するガイドラインを提案することを目指して、以下の課題に取り組んでいる。

(1) BDBEに対する考え方と要求性能

(2) BDBE条件下における破損拡大抑制技術の開発

(3) 次世代高速炉を対象としたレジリエンス向上策の検討

(4)  国際展開

主査:笠原直人(東京大学) 副主査:望月正人(大阪大学)

幹事:堂崎浩二(東北大学)、釜谷昌幸(原子力安全システム研究所)

委員:中立委員17名・委員8名 事務局:3名

令和2年度に採択され同年12月から開始された文部科学省原子力システム研究開発事業「原子炉構造レジリエンスを向上させる破損の拡大抑制技術の開発」の外部評価と、その成果を一般化した「設計想定を超える事象(Beyond Design Basis Events)に対する原子炉構造レジリエンス向上ガイドライン」の策定を通した社会実装を目的として以下の活動を行っている。

(1) BDBEに対する新しい考え方の提案

BDBE、既に損傷を受けた1F構造物、過大地震や巨大津波などの外部事象は不確定性が大きいことから、想定に対する備えである設計的なアプローチは合理的でない。不確定性が大きな事象に対して、損傷発生後の拡大防止と安全性への影響緩和を目的とした構造力学の新しい考え方を共同提案するため、9月19日にBDBE小委員会と日本原子力学会 廃炉検討委員会 強度基準検討分科会 を合同開催した。

(2)BDBE条件下における破損拡大抑制技術の開発

原子力システム事業「原子炉構造レジリエンスを向上させる破損の拡大抑制技術の開発」の令和5年度(最終年度)進捗状況について評価し、以下のまとめ方についての助言を行った。

・損傷発生後の拡大防止と安全性への影響緩和を目的とした新しい構造強度技術として提案する「破局的な壊れ方をしない受動安全構造」

・次世代高速炉を対象とした受動安全構造を用いたレジリエンス向上策

・レジリエンス指標、炉心損傷確率、フラジリティによるレジリエンス向上効果可視化

(3) 設計想定を超える事象に対する原子炉構造レジリエンス向上ガイドライン

技術手段を提案しても、その上位にある考え方である「壊れ方が破局的でない受動安全構造」についてのコンセンサスが得られないと社会実装が進まない。

そのために、基本的考え方を提案した上で、ガイドラインの基準階層の中での位置づけを明確にした。福島事故からの重要な教訓を明確にし、安全の概念を再認識することが最も重要であり、ASME の新たな原子炉安全概念の再構築の提案やISO Guide 51 などを参考とした。

(4) 国際展開

BDBEに関しては、IAEAやCNSCの関心が高く原子力構造力学会議(SMiRT)を介して意見交換を行っている。2024年3月に33年ぶりに日本で開催されたSMiRT27にて、BDBEと福島第一発電所の強度評価の在り方に関する特別セッションを開催し、構造強度に関する新しい考え方を国際社会にアピールした。

2.5 CAF小委員会
「塑性拘束効果を考慮した破壊評価基準の確立検討小委員会」

2018年度~2022年度に実施したCAF小委員会では、延性亀裂を伴うへき開破壊が生ずるDBTT(延性-脆性遷移温度)領域において、塑性拘束効果を考慮した破壊評価手法の適用性を検討した。その結果、実構造物と同程度の拘束度を持つ浅い表面亀裂付き平板試験片の破壊試験に対し、従来の破壊力学が持つ過度の保守性を排除して適切に耐破壊安全性を評価できることを検証した。また、解析ツールの汎用化のためベンチマーク問題を設定し、解析機関間の評価結果の有意差を極力抑えるような解析条件設定法を検討した。これらの成果をもとに、DBTT領域での塑性拘束効果を考慮した破壊評価法ガイドラインを策定した。

後継のCAF-II小委員会では、当ガイドラインを社会実装するため、規定内容の標準化と利便性向上を図り、業界で活用できる規格案を策定する。本小委員の活動骨子は次のようである。

(1)CAF小委員会の破壊試験データ及び関連文献の有用結果に対する追加解析を通した破壊予測の精度向上

(2)産業界に実装する規格骨子案の策定

2023年度は、計2回の小委員会と4回の合同WG(手法検討WG + 解析WG)を開催した。活動内容と主な成果は以下の通りである。

(1) CAF小委員会の破壊試験データ及び関連文献の有用結果に対する追加解析を通した破壊予測の精度向上

塑性拘束補正係数χの適用範囲拡大と精度向上を図るため、面亀裂付き平板曲げモデルに対し、板厚、亀裂寸法(亀裂深さと長さ)、降伏比、ワイブルパラメータmを因子とするパラメトリック解析を実施し、各因子が補正係数χに及ぼす影響を確認した。ワイブル応力解析における留意点(大変形下の亀裂先端近傍の除荷領域の取扱い、ワイブル応力算出時のガウス積分方法等)やワイブルパラメータの温度依存性についても調査した。

(2) 産業界に実装する規格骨子案の策定

2023年度は、CAF小委員会成果としてまとめた破壊評価ガイドラインの日本溶接規格WES化を目標として規格原案策定を進めたが、規格の性格(PTS事象を対象とした耐破壊安全性を評価する規格策定)と規格発行後の規格メンテナンスを考慮し、2024年度は電気協会規格化を念頭とした規格骨子案策定を図ることにした。

(3) 国外機関との情報交換・情報収集

ASME PVP2023に参加し、フランスの研究機関では、2パラメータアプローチのJ-Q理論を適用し、破壊評価に統計的手法を用いないロバストな工学的手法を提案していることの情報を得た。当小委員会とは異なる手法を検討しており、引き続き調査収集を継続するとともに、有用な情報があれば規格骨子案への取り込みを検討する。

2.6 DHI-Ⅲ小委員会
「デジタル打音検査技術の高度情報化に関する調査研究小委員会(PhaseⅢ)

 原子力発電所の高経年化が進み、設備保全の観点から配管・アンカー等の溶接部・接合部の構造健全性を簡便に診断する技術が望まれている。2019年度に活動を開始したDHI小委員会第一期では、デジタル打音検査技術に関する調査研究WGと高度情報化検討WGにより調査研究を行い、基礎ボルト検査方法、金属/コンクリート間の界面状態検査方法に関するガイドライン案を作成した。第二期2年目(最終年度)となる2023年度はこれまでの活動を引き継ぐとともに各種センサ技術(オンラインモニタリング等)に対象範囲を広げて活動を行った。具体的には2つのワーキンググループにおいて以下の活動を行った。

(1)調査研究WG

・デジタル打音検査に係る事例収集

 原子力分野、溶接分野の事例を追加。

・基礎ボルト検査方法 ガイドライン(案)作成

 日本コンクリート工学会年次論文集 Vol.44、45に関連論文が受理。

・金属/コンクリート間の界面状態検査方法 ガイドライン(案)作成

 日本原子力学会和文論文誌に受理。

・各種センサ技術の高度情報化に関する調査(オンラインモニタリング等)

 発電プラントにおける異常診断、振動計測による回転機器の診断等を継続調査。

・社会実装に向けた取組み

 沖縄県との連携により古宇利大橋のデジタル打音検査を継続的実施。

(2)高度情報化WG

・デジタル打音検査の機械学習による状態予測

 PCコンクリート埋設状態の予測、埋め込み金物の状態予測の研究結果の報告とデータの共有を実施。

・異常検知AIの文献調査

 文献調査リストを作成しWGメンバと共有し文献調査の実施。

・AIの工学応用に関する研究動向の報告

 日本機械学会、日本計算工学会、IACM関連の学会における研究動向の紹介。

2.7 FQA3小委員会 幹事会
「Q&A方式による疲労知識の体系化に関する調査研究」

FQA3小委員会については、2018年度に委員会活動を終了し、FQA3の成果として取り纏めた「過去の疲労小委員会の成果」「疲労に関するQ&A集」「疲労に関する重要知識」を、溶接協会のHPで「疲労ナレッジプラットフォーム」として公開した。この「疲労ナレッジプラットフォーム」の維持、管理と最新情報の反映を目的としてFQA3幹事会の活動を継続している。

2023年度はおよそ2ヶ月に1回の頻度で幹事会を開催している。2023年度の活動状況および次年度の計画は以下の通りである。

(1) 過去の疲労小委員会の成果 について

既に委員会が終了している、「設計疲労線図の策定に係る調査(Phase Ⅲ)」(DFC3小委員会) については学会等で発表が済んでいるため、疲労ナレッジプラットフォームでの公開に向け各メーカの若手技術者を中心に成果をPPT形式の資料に纏め、「DFC3小委員会の成果」としてWEB掲載する準備を完了した。その後、委託元である電力各社に開示許可を依頼していることから、許可が出次第、2024年度にHPにて公開を行う予定である。

(2) 疲労に関するQ&A集 について

2023年度の成果として、これまで審議を完了した19件のQAシートを新たにHPに掲載した。これにより計画したQAシートの完成は終了した。また、2023年11月に開催されたFatigue 2022+1において、QAシートの紹介として3件の講演を行った。さらに、QAシートをより広く一般に活用いただくことを目的に、2023年度は「QAシートの出版化」計画を進めた。QAシートの出版化活動では、5つのカテゴリへのQAシートの分類と掲載順序の案を検討している。2024年度は出版化をより推進し、年度内に出版までにこぎつける計画である。

(3) 疲労に関する重要知識

2023年度の新たな成果はないが、2024年度は、2023年11月に開催されたFatigue 2022+1でのQAシートに関する講演やDFC小委員会の成果に関して発表された講演資料と、過去に開催された疲労に関するシンポジウムの講習会資料(公開期限を迎えたもの)を新たに疲労ナレッジプラットフォームに掲載する計画である。

2.8 FDF-Ⅲ小委員会
「繰返し荷重下での低サイクル疲労および延性破壊に対する評価法の整備に関する調査研究

(その3)」  

これまでFDF/FDF-Ⅱ小委員会において規格への反映を目的に、J積分範囲ΔJを用いた亀裂進展評価法に関するガイドライン整備を進めてきた。ここで整備したJ積分及び亀裂進展評価手法は、CT試験片及び貫通亀裂付配管の試験データを検証データとして整備されたものである。しかしながら、実機では表面亀裂に対する需要が高く、ガイドライン(案)の規格化には表面亀裂に対する評価精度の確認など幾つかの課題があると考えられる。

そこで2022年度はFDF-Ⅲ小委員会準備会を設立し1年間の準備期間を設け,J積分範囲ΔJを用いた亀裂進展評価法の規格化に向けて、課題整理、方針策定及び評価法検証に資する表面亀裂付き配管に対して低サイクル疲労亀裂進展試験を実施した。

2023年度は、これらの準備結果を基に、FDF-Ⅲ小委員会を設立し、文献調査、数値解析を実施して、小規模降伏条件を逸脱したときの亀裂進展評価ガイドラインの精緻化に着手した。2023年度の主な成果は以下の通りである。

(1)    J積分評価に関する既往研究調査

FDF-Ⅱ小委員会で策定した「J積分範囲ΔJを用いた亀裂進展評価法のガイドライン(案)」は、主として直管に発生した亀裂に地震荷重が作用することを想定した評価法であった。適用荷重を熱応力、適用部位をエルボなどに広げられるか否かを検討するために、調査対象文献と分担を決定し、2件の文献調査を終えた。

(2)    参照応力評価式の高精度化と適用範囲の明確化

FDF-Ⅱ小委員会では、J積分やJ積分範囲評価の観点から、代表的な亀裂を有する構造部材に対する参照応力式の評価を行い、その有効性に対する見通しを得た。これらの式は、有限要素解析の結果を基にして、下界定理に基づいて得られた極限荷重式に基づく式に対する補正を加えたものである。しかし、補正のための式の根拠については明らかにされていないため、より精度よい評価式を探索するとともに、その適用範囲についても検討した。

(3)    繰返し複合荷重下での低サイクル疲労及び延性破壊に対する解析手法の検討

低サイクル疲労及び延性破壊に対する評価法を整備することとし、準備会で実施した周方向表面亀裂付き配管の亀裂進展試験のトレース解析を複数機関で実施した。各機関からの経過報告を比較検討した結果、有効なモデル化やgeneration phase解析手法とそれらの問題点が明らかになった。