委員長挨拶

特殊材料溶接研究委員会委員長 才田 一幸 氏 (大阪大学 教授)

 特殊材料研究委員会は、(一社)日本溶接協会所属の研究委員会でも、最も長い歴史を持つ研究委員会です。本委員会が設立されたのは昭和28 年であり、当時は、戦後の混乱期から造船、重工業を中心とした興国の産業が復興し始めた時期でした。この時期は、鉄鋼業、重工業を中心とした重厚長大型の産業の興隆が著しく、その後、我が国をGDP 世界第2 位の経済大国に押し上げる原動力となる主幹産業であったのは周知の通りです。以降、2 度のオイルショックを経て、産業構造が変化し、主要工業製品の高性能、高付加価値化が進む時代となったが、戦後間もない時期に時代に先駆け、高性能、高付加価値製品の製造に必須の特殊材料に着目し、その溶接に関する研究委員会を発足させたことは、特筆に値する。

 本研究委員会では、その後も、ステライト合金、チタンやジルコニウム合金、耐熱超合金、高純度耐食合金、結晶制御合金など絶えず時代の先端的な材料を取り上げ、その溶接に関する研究発表や技術情報交換を続けてきた。これらの成果はそれぞれの材料を用いた製品の信頼性や品質向上に資する重要な情報との評価を受け、その一部は溶接作業標準やWES及びJISの原案にも採用された。近年は、社会の成熟化に伴い、安全・安心な社会システムへの指向が進む中、工業製品に対しては健全性や長期使用に耐える安全性や環境負荷低減、省資源、省エネルギーなどが一層重要視されている。このような社会の要請を背景に、工業製品には高信頼性、高性能、長期安定性などを進化させる技術のさらなる高度化が求められ、その実現のため、各産業分野で特殊材料の新たな製品への採用が不可欠となっており、その重要性はますます拡大している。一方、最近はグローバル化が加速される状況の中で製造業を取り巻く環境は大きく変化し、製造拠点の海外移転や部品製作・加工など製造の要素技術単位での海外発注などが進んでおり、溶接技術など我国が誇りとしてきた高度な生産基盤技術の維持や発展に影を投げかける傾向があるのは否めないところです。最も懸念されるのは、我が国の製造業が製造拠点の海外移転や技術移転を進めた結果、製造業を支えてきた高度生産技術知の伝承が困難なとなっている事態です。このような状況において、かつての技術、情報、ノウハウを纏めて後世に残していくことが喫緊の課題といえる。

 本委員会は特殊材料の溶接技術の技術伝承を重点課題と位置付け、これまで各製造分野で培われた技術知に基づき、特殊材料の溶接に関する専門書を出版してきた。「耐熱材料の溶接ガイドブック」、「金属材料溶接施工データ集」 「ステンレス鋼溶接のトラブル事例集」、「スーパーアロイの溶接」、「異材溶接ガイドブック」などの専門書などがその例です。また、これらの書籍をテキストとして「ステンレス鋼の溶接」や「スーパーアロイの溶接」に関する講習会を全国各地で積極的に開催し、溶接技術に携わる技術者の人材育成や啓発活動にも努めてきた。

 一方、本委員会の対象材料の特殊性から、公官庁や政府関連の事業団から国家プロジェクトに関連した事業の溶接研究の委託を受け、派生して設立された委員会もいくつかある。科学技術庁から委託を受けた再処理施設関連の異材接合研究を対象とした「異材接合部耐食安全性実証試験委員会」や宇宙開発事業団からの委託を受けた「宇宙機溶接技術研究委員会」などであり、それぞれが国家プロジェクトの推進に寄与した。また、最近では原子力発電の低放射性廃棄物処分容器の健全性評価に関する研究委員会を発足させ、低放射性廃棄物処分容器の溶接に関する作業標準の策定なども行っている。

 今後も我が国の維持発展には、高性能、高付加価値と同時に未踏の技術領域に挑戦した先端的な製品の製造を押し進めることが必要であり、このためには溶接分野においても極限環境や先端領域で駆使される特殊材料の溶接技術の確立などの推進が不可欠であるといえる。

 特殊材料溶接研究委員会は、今後も特殊材料の溶接技術知の進歩と啓発を目的として、一層積極的な活動を推進して参ります。本委員会に対しまして、皆様方のご支援、ご協力賜りますことを、何卒よろしくお願い申し上げます。

入会を希望される企業・団体の皆様へ

 委員会への入会を希望される方は、初めに(一社)日本溶接協会の業務部までお電話をお願いいたします。お電話にて入会に関する手続き等を説明させていただきますので、その後入会申込書のご提出をお願いいたします。入会申込書については、本ページに掲載されておりますpdfファイルをご利用ください。