1.原子力研究委員会

1.1 第167回原子力研究委員会(6月13日:溶接協会)

  特別講演「機械学習によるき裂進展サロゲートモデルの構築~微分方程式による説明可能なモデル~」
  和田 義孝氏(近畿大学・教授)

1.2 第167回原子力研究委員会および見学会(11月11日:浮体式洋上風力発電施設 はえんかぜ視察)


1.3 次世代革新炉開発の現状と構造・材料への期待(第57回国内シンポジウム)の開催

 (7月24日開催:無料/ハイブリッド開催)

1.4 原子力プラント機器の健全性評価に関する講習会の開催

(11月27日・28日開催:ハイブリッド開催)

2.小委員会

2.1 国際連絡小委員会

2023年4月に開催した第14回ASINCO(International Workshop on the Integrity of Nuclear Components)国際ワークショップにおける講演論文の中から学術的価値の高い論文8編を選定し、International Journal of Pressure Vessels and Pipingに公刊すべく出版社との交渉、選定論文のレビューを進め、特集号の発刊に至った(https://www.sciencedirect.com/special-issue/10GB7JCBX5L)。 2025年4月16~18日にわたり台湾、台南市で開催予定の第15回ASINCO国際ワークショップの企画立案に協力して準備を進めた。原子力研究委員会傘下の小委員会の協力を仰ぎ、基調講演1件および講演論文7件をエントリーした。

2.2 SPN-Ⅱ小委員会
「原子力構造機器の経年化とその関連技術に関する調査研究」
 

2012年度までは、原子力プラント機器の構造健全性、経年劣化に関連する分野の動向を幅広く把握するために、文献抄訳、講演を通した動向調査を進めてきた。さらに、東日本大震災時の福島第一原子力発電所の事故後は、大地震などに代表される過大荷重下での機器やプラントの健全性を評価するための手法の整備や適用の動向をメインの対象とした調査活動を行っている。また、2016年度からは「弾塑性解析に基づく構造健全性評価ガイドライン」の作成を目的として、応力-ひずみ関係式や限界ひずみ評価式に関する検討を進めている。

2024年度は4回の委員会を開催し、昨年度までと同様に、文献抄訳を通じて上記分野の技術動向を調査するとともに、弾塑性解析に基づく構造健全性評価ガイドラインの作成に向けた検討を進めた。体制を以下に示す。

・主 査 :高橋由紀夫((一財)電力中央研究所)

・委 員 :10機関、12名

活動の概要を以下に示す。

(1)文献調査

・7件の論文を調査した。3件はGursonモデルやGTNモデルなどの損傷モデルを用いた延性破壊予測、3件は延性破壊関係、1件はニュ  

ーラルネットワークによる疲労寿命予測に関する論文であった。

・今後の調査文献を検討するために、主要雑誌の目次を基に最近の掲載論文についてリストを作成し、国、テーマ(疲労、破壊、クリ

ープなど)、材料の項目別に分類・整理を行った。

(2)弾塑性解析に基づく構造健全性評価ガイドラインの検討

構造健全性評価ガイドラインへの導入を念頭において、降伏応力、引張強さ、破断伸び、絞りなどの機械的特性を用いた真応力-真ひずみ関係式の整備に加え、応力三軸度とロード角を用いて局部破壊の発生や塑性変形抵抗に対する損傷の影響を考慮する延性破壊評価法の検討を実施した。それらの検討結果を基に、応力-ひずみ関係式、及び、損傷評価式と材料定数の決定法について、ガイドライン案をまとめた。

2.3 PFM小委員会
「原子力構造機器信頼性評価への確率論的破壊力学の適用法に関する調査研究」

平成23年3月11日に発生した東日本大震災に起因する福島第一原子力発電所の事故は、原子力関連施設の事故がいかに大きな影響を与えるものであるかを再認識させることとなった。地球温暖化の議論に関連し、原子力発電への期待も高まってはいるが、一旦全て停止した原子炉の再稼働は必ずしも順調であるとはいえない状況が続いている。さらに、処理水の海洋放出をめぐり、風評被害に関する議論が活発になってきている。維持基準導入など、破壊力学の適用は進んではいるが、まだ、確率論的取り扱いが広く議論されるまでにはいたってはいない。一方、コロナ禍により一般大衆の確率的事象に対する理解度の向上が期待され、ウクライナ危機に伴う世界的エネルギー状況への不安から、原子力発電への期待が大きくなっていくものと思われる。

このような状況から、確率論的手法、特に破壊力学に確率論を取り入れた確率論的破壊力学(Probabilistic Fracture Mechanics : PFM)の重要性が、国内でも認識されてくると考えられる。その際には、欧米で開発されたコードを輸入し、ブラックボックス的に利用するだけでは信頼できる評価を行うことは不可能であり、国内の状況を適切に反映した我が国独自のPFMコードの整備・開発を続けているが、基準への適用は遅れている。その中で、10月に東京で開催された原子力分野の確率論適用に関する国際会議ISPMNA5において、各国のメーカー、事業者、規制側の研究者が一同に集まり、意見交換を行ったことは大きな一歩であると言える。

今年度の小委員会活動として、確率論的評価法の信頼性を高めること、および適用分野の拡大、さらには解析手法のガイドライン化などを目的として、原子炉重要機器の破壊確率評価、不確実性の取り扱いに対する考察、PFM解析プラットフォーム整備、規格における溶接残留応力の取り扱い調査、クリープ寿命への確率論的評価の試み、および文献調査などを行なった。また、PFM技術の広報活動の一環として、東京大学吉村特任教授のPFMに関する講演動画を一般公開する。

2.4 BDBE2小委員会 準備会
「設計基準外事象の評価と対策に関する調査研究小委員会(BDBE2小委員会準備会)」

「設計基準外事象の評価と対策に関する調査研究小委員会(BDBE小委員会)」は、「設計基準外事象(BDBE)」に対する安全性向上に向けた構造・材料分野の考え方を整理し、コンセンサスを醸成することと、それを実現するための新しい技術を調査検討することを目的として、2016年度に発足し、文部科学省の原子力システム事業費を利用して活動してきた。

近年では原子力システム事業「原子炉構造レジリエンスを向上させる破損の拡大抑制技術の開発」を2023年度まで実施し、文部科学省よりS評価を受けた。継続のため2024年度事業に応募したが、残念ながら僅差で採択に至らなかった。

「設計基準外事象の評価と対策に関する調査研究小委員会(BDBE小委員会)」

(1) BDBEに対する考え方と要求性能

(2) BDBE条件下における破損拡大抑制技術の開発

(3) 次世代高速炉を対象としたレジリエンス向上策の検討

(4)  国際展開

主査:笠原直人(東京大学) 副主査:望月正人(大阪大学)

幹事:堂崎浩二(東北大学)、釜谷昌幸(原子力安全システム研究所)

委員:中立委員19名・委員8名 事務局:3名

このため、2024年度は再応募の準備を進め、以下の応募申請書を作成した。「構造対策とシステム安全対策の連携による不確定性の大きい事象の合理的リスク低減法の研究」

自然現象に代表される不確定性の大きい事象に対して、影響緩和を重視した合理的リスク低減の方法論・技術を開発するため、以下の研究を実施する。

Ⅰ. 構造対策とシステム安全対策連携の方法論の構築

Ⅱ. 連携に必要な設備集合の性能評価法の開発

Ⅲ. 対策の連携による合理的リスク低減法の提示

2.5 CAF-Ⅱ小委員会
「塑性拘束効果を考慮した破壊評価基準の確立検討小委員会 PhaseⅡ」

2018年度~2022年度に実施したCAF小委員会では、延性亀裂を伴うへき開破壊が生ずるDBTT(延性-脆性遷移温度)領域において、塑性拘束効果を考慮した破壊評価手法の適用性を検討した。その結果、実構造物と同程度の拘束度を持つ浅い表面亀裂付き平板試験片の破壊試験に対し、従来の破壊力学が持つ過度の保守性を排除して適切に耐破壊安全性を評価できることを検証した。また、解析ツールの汎用化のためベンチマーク問題を設定し、解析機関間の評価結果の有意差を極力抑えるような解析条件設定法を検討した。これらの成果をもとに、中性子照射を受けた原子炉圧力容器を対象として、塑性拘束補正係数χを導入した破壊評価ガイドラインを策定した。

後継のCAF-II小委員会では、当ガイドラインを社会実装するため、原子炉圧力容器のPTS事象での脆性破壊に焦点を絞って規定内容の標準化と利便性向上を図り、規格化に向けた検討を行った。活動骨子は次のようである。

(1)CAF小委員会の破壊試験データ及び関連文献の有用データに対する追加解析を通した破壊予測の精度向上

(2)産業界に実装する規格骨子案の策定

(3)国外機関との情報交換・情報収集

2024年度は、本小委員会の活動最終年度で、計2回の小委員会、1回の規格策定WG、及び5回の合同WG(手法検討WG + 解析WG)を開催した。活動内容と主な成果を以下にまとめる。

(1) CAF小委員会の破壊試験データ及び関連文献の有用結果に対する追加解析を通した破壊予測の精度向上

表面亀裂付き平板曲げモデルに対し、板厚、亀裂寸法(亀裂深さと長さ)、降伏比RY、及びワイブルパラメータmを影響因子とするパラメトリックFE解析およびワイブル応力解析を実施し、塑性拘束補正係数χの適用範囲拡大と精度向上を行った。χ を負荷レベルの関数として表現し、主要因子(降伏点σYRYm)の影響を組み入れたχ算定式の定式化を行った。評価対象材は中性子照射を受けた材なので、照射材のσY及びRYの推定方法についても策定した。

(2) 産業界に実装する規格骨子案の策定

CAF小委員会の成果としてまとめた破壊評価ガイドラインを業界で活用できるように、(1)のパラメトリック解析結果を反映した規格化に向けた検討を行った。

(3) 国外機関との情報交換・情報収集

ASME PVP2024会議に参加し、フランスの研究機関では、PTS事象において半楕円亀裂前縁の温度分布に着眼し、半楕円亀裂前縁位置ごとにワイブル応力を算定(これをワイブル応力密度と称している)する耐破壊安全性評価手法を検討しているとの情報を得た。(2)の規格化に向けては、今後もフランスの動向を注視する必要がある。

2.6 DHI-Ⅲ小委員会
「デジタル打音検査技術の高度情報化に関する調査研究小委員会(PhaseⅢ)

原子力発電所の高経年化が進み、設備保全の観点から配管・アンカー等の溶接部・接合部の構造健全性を簡便に診断する技術が望まれている。2019年度に活動を開始したDHI小委員会第一期では、デジタル打音検査技術に関する調査研究WGと高度情報化検討WGによる調査研究を行い、基礎ボルト検査方法、金属/コンクリート間の界面状態検査方法に関するガイドライン案を作成した。2022年度に開始した第二期では対象範囲を広げ、各種センサ技術による高度情報化(オンラインモニタリング等)の調査研究を行ってきた。2024年度から開始した第三期ではこれまでの活動を引き継ぎデジタル打音検査技術のガイドライン案を整備・拡張すると共に、それらの技術に人工知能を活用した場合の高度情報化技術のガイドライン案の検討、社会実装に向けてインフラ維持管理分野での地方自治体との連携、デジタル打音検査に係る技術文書の公開などを行うこととしている。具体的な活動成果は以下となる。

(1)調査研究WG

デジタル打音検査に係る事例収集、各種センサ技術の高度情報化に関する調査、沖縄県土木事務所との連携によりコンクリート橋梁経年劣化のデジタル打音検査などを継続的に実施した。公開する技術文書として「デジタル打音検査技術の基礎と応用」に基礎理論、ガイドラインを含む利用法、利用事例などの取り纏めを進めた。

(2)高度情報化WG

異常検知AIの文献調査、AIの工学応用に関する研究動向の報告、デジタル打音検査の機械学習による状態予測手順のガイドライン化を継続して実施している。

2.7 FQA3小委員会 幹事会
「Q&A方式による疲労知識の体系化に関する調査研究」

 FQA3小委員会は既に委員会活動を終了し、FQA3の成果として取り纏めた「過去の疲労小委員会の成果」「疲労に関するQ&A集」「疲労に関する重要知識」を、溶接協会のHPで「疲労ナレッジプラットフォーム」(以下、「労ナレッジ」という)として公開している。

 2024年度から、原子力研究委員会より活動費の支援を受け、疲労ナレッジの維持、管理と最新情報の反映というこれまでのFQA3小委員会幹事会の活動に加え、電力殿からの委託研究の獲得を目指した提案活動を実施した。また、これらの活動推進、議論のため、幹事会をおよそ2ヶ月に1回の頻度で開催した。

2024年度の活動状況および2025年度の計画は以下の通りである。

(1) 過去の疲労小委員会の成果 について

2024年度は、「設計疲労線図の策定に係る調査(Phase Ⅳ)」(DFC4小委員会)の成果に関し、ASME PVP2024において幹事会のメン  

バが8件の講演を行い、日本での疲労研究のアクティビティを積極的に世界へ発信した。本年度は若手参加者を中心にその成果を「DFC4小委員会の成果」としてPPT形式に纏め、WEB公開することを検討する。

(2) 疲労に関するQ&A集 について

疲労ナレッジに公開しているQAシートの出版化活動を推進した。2024年度中の完成を目指したが、出版にあたり過去に公開した  

QAシートの再チェック、最新情報の反映を丁寧に進めたことから、年度内の完成には至らなかった。完成までは校正等の編集上の    

対応のみであり、本年度前半での早期出版を目指す。

(3) 疲労に関する重要知識

2024年度はFatigue 2022+1で発表したで発表したDFC4小委員会の成果とQAシート紹介の講演、並びに、2021年7月実施のシンポ 

ジウムテキストが公開可能な時期になったことから、これらを疲労に関する重要知識として疲労ナレッジで公開した。

(4) 電力若手疲労研修会の開催

FQA小委員会成果の社会活動への活用推進と、疲労研究の重要性を理解頂くことを目的として、疲労ナレッジに纏めた内容を中  

心に、電力会社の若手技術者を対象とした無料の疲労研修会を開催した。ハイブリッド形式での開催で、各電力殿から35名の参加が 

あった。今後の開催を希望する意見も頂いたこと、また電力委託研究獲得に向けたプロモーションとして、本年度は2回目の研修会

を計画している。

(5) AM材の疲労研究と電力共研委託に向けた活動

今後原子力設備への適用が期待されるAM材について、疲労研究の実施に向けた準備活動として文献調査を実施し、課題の検討を行  

った。また、電力委託による小委員会発足を目指し、ATENAにAM材の疲労研究を提案、ATENA内でも前向きに検討いただくことに

なった。今年度は電力委託の実現を目指し、AM委員会とも連携を図りつつ、必要な提案活動をさらに積極的に進めていく。

2.8 FDF-Ⅲ小委員会
「繰返し荷重下での低サイクル疲労および延性破壊に対する評価法の整備に関する調査研究

(その3)」  

これまでFDF/FDF-Ⅱ小委員会では、規格への反映を目的として、J積分範囲ΔJを用いた亀裂進展評価法に関するガイドライン整備を進めてきた。このガイドラインは、CT試験片及び貫通亀裂付配管の試験データを用いて整備されたものである。しかしながら、実機では表面亀裂に対する需要が高く、ガイドライン(案)の規格化には表面亀裂に対する評価精度の確認など、いくつかの課題があると考えられる。

そこで2022年度はFDF-Ⅲ小委員会準備会を設立し1年間の準備期間を設け、J積分範囲ΔJを用いた亀裂進展評価法の規格化に向けて、課題整理、方針策定及び評価法検証に資する表面亀裂付き配管に対して低サイクル疲労亀裂進展試験を実施した。これらの準備結果を基に、2023年度よりFDF-Ⅲ小委員会を設立し、文献調査、数値解析を実施して、小規模降伏条件を逸脱したときの亀裂進展評価ガイドラインの精緻化に着手した。2024年度の主な成果は以下の通りである。

(1) J積分評価に関する既往研究調査

FDF-Ⅱ小委員会で策定した「J 積分範囲ΔJ を用いた亀裂進展評価法のガイドライン(案)」は、主として直管に発生した亀裂に地震荷重が作用することを想定した評価法である。適用荷重を熱応力、適用部位をエルボなどに広げるために文献を調査した。一次応力と二次応力が重畳した場合のJ積分値の評価法やエルボのJ積分値に関して有益な知見を得た。

(2) 参照応力評価式の高精度化と適用範囲の明確化

FDF-Ⅱ小委員会では、J積分やJ積分範囲評価の観点から、代表的な亀裂を有する構造部材に対する参照応力式の評価を行い、その有効性に対する見通しを得た。これらの式は、有限要素解析の結果を基にして、下界定理に基づいて得られた極限荷重式に基づく式に対する補正を加えたものである。しかし、補正のための式の根拠については明らかにされていないため、より精度よい評価式の提案を行い、その適用範囲も明らかにした。

(3) 繰返し複合荷重下での低サイクル疲労及び延性破壊に対する解析手法の検討

低サイクル疲労及び延性破壊に対する評価法を整備することとし、準備会で実施した周方向表面亀裂付き配管の亀裂進展試験のトレース解析を複数機関で実施した。各機関からの経過報告を比較検討した結果、有効なモデル化やgeneration phase解析手法とそれらの問題点が明らかにし、各参加機関での要素分割寸法や構成則のパラメータの決め方を調査した。