Atomic Energy Research Committee

2021年度(令和3年度)活動状況

1.原子力研究委員会
1.1 第161回原子力研究委員会(6月8日:ハイブリット開催)
特別講演「リスクを活用したパフォーマンスに基づく意思決定」
山口 彰氏 (国立大学法人東京大学 教授
1.2 第162回原子力研究委員会(10月23日:ハイブリッド開催)
特別講演「2050年カーボンニュートラルを達成しSociety5.0を支えるエネルギーシステムとは」
吉村 忍氏 (国立大学法人東京大学 教授)
1.3 新しい設計疲労曲線の疲労解析に関するシンポジウム-産業を超えた合理的な共通基盤の構築に向けて(第55回国内シンポジウム)の開催(7月9日開催:ハイブリッド開催)
1.4 原子力プラント機器の健全性評価に関する講習会の開催(12月1日・2日開催:ハイブリッド開催)

2.小委員会
2.1 国際研究連絡小委員会
   日本、韓国、台湾が隔年持ち回りで開催している原子力機器健全性に関する国際ワークショップ(International Workshop on the Integrity of Nuclear Components)の第13回目が当初計画より一年延期されて2021年4月21、22日にオンラインで開催され、その企画、運営に協力した。同ワークショップにおける講演論文のうち学術的価値が高いものを選定し、International Journal of Pressure Vessels and Pipingの特集号として公刊すべく準備作業を進めた。次回ワークショップを2023年春に日本で開催することを提案し、賛意を得た。これを受けて、開催地、開催期日、実施要領に関する検討作業を開始した。
2.2 SPN-Ⅱ小委員会「原子力構造機器の経年化とその関連技術に関する調査研究」
 2012年度までは、原子力プラント機器の構造健全性、経年劣化に関連する分野の動向を幅広く把握するために、文献抄訳、講演を通した動向調査を進めてきた。さらに、東日本大震災時の福島第一原子力発電所の事故後は、大地震などに代表される過大荷重下での機器やプラントの健全性を評価するための手法の整備や適用の動向をメインの対象とした調査活動を行っている。また、2016年度からは「弾塑性解析に基づく構造健全性評価ガイドライン」の作成を目的として、応力-ひずみ関係式や限界ひずみ評価式に関する検討を進めている。
2021年度は5回の委員会(時間は原則13:30~17:00)を開催し、昨年度までと同様に、文献抄訳と講演を通じて上記分野の技術動向を調査するとともに、弾塑性解析に基づく構造健全性評価ガイドラインの作成に向けた検討を進めた。体制を以下に示す。
・主 査 :高橋由紀夫((一財)電力中央研究所)
・委 員 :13機関、16名
活動の概要を以下に示す。
(1)講演及び文献による調査
・2回の講演が行われた。「経年配管を対象とした地震フラジリティ評価手法の整備」と題した講演(講師:JAEA山口氏)では、地震荷重を考慮した配管破壊評価手法や損傷確率を算出可能な確率論的解析コード「PASCAL-SP2」に関する理解を深めた。また、「Ductile Tearing Prediction of Ferritic Pipes by GTN Model for ATLAS+ European Project」と題した講演(講師:三菱重工北条委員)では、ASME PVPにて発表された2件の論文により、材料試験片によって得られた材料特性の構造体への適用性などを中心に破壊評価手法に関する理解を深めた。
・文献調査では、Gursonモデル、その改良モデル「Layer model」、多軸破壊ひずみモデル、最大剪断応力と最大主応力を重み付け和で組み合わせた非連成破壊モデルなどを用いた延性破壊解析に関する7つの文献を調査し、損傷力学モデルによる延性破壊評価法及び延性破壊挙動に及ぼす応力多軸度、Lodeパラメータの影響などについての理解を深めた。
(2)弾塑性解析に基づく構造健全性評価ガイドラインの検討
構造健全性評価ガイドラインへの導入を念頭において、真応力-真ひずみ関係式の見直し、各種材料(SUS316、SQV2A、NCF600、SN400)の応力-ひずみ関係や切欠き材の荷重―変位関係についての FEM解析による検討、引張強さ/降伏応力比に依存した破損限界ひずみ評価式の検討などを行った。
2.3 PFM小委員会「原子力構造機器信頼性評価への確率論的破壊力学の適用法に関する調査研究」
  我が国における確率論的破壊力学に関する研究は、日本溶接協会および日本機械学会の研究委員会等で20年以上にわたり行われている。維持基準導入など、破壊力学の適用は進んではいるが、まだ、確率論的取り扱いが広く議論されるまでにはいたってはいない。一方、2011年3月11日の東日本大震災に伴う福島原子力発電所事故の発生以来、原子力の安全性への関心が高まっており、発生頻度の極めて低い事象の扱いが必要となることから、確率論的評価法への期待は大きくなって行くと思われる。
このような状況の中、今年度は、確率論的評価法の信頼性を高めること、および適用分野の拡大、さらには解析手法のガイドライン化などを目的として、原子炉圧力容器の破壊確率評価の標準化、BWR原子炉圧力容器のPFM評価コード整備、配管を対象としたベンチマーク解析、PFM解析プラットフォーム整備、社会インフラ診断への適用などの活動を行なった。また、コロナ禍で海外との交流が制限される中、USNRCのDr. Rudland氏によるオンライン講演会を企画し、小委員会メンバー以外からも多くの方に参加いただき、有意義な意見交換を行うことができた。
2.4 FDF-II小委員会
「繰返し荷重下での低サイクル疲労および延性破壊に対する評価法の整備に関する調査研究(その2)」

設計加速度を超えるような巨大地震により、機器に弾塑性挙動が発生した場合の健全性評価や破壊の評価方法は確立されていない。また、エルボやティ継手等を有する配管は、引張、曲げ、ねじりが重畳する複合荷重状態となる。このため、複合荷重下の試験データの整備、及び弾塑性挙動を想定した数値解析評価技術の整備が重要である。
本小委員会では、FDF小委員会に引続き、2019年度から3年間にわたり繰返し荷重下の低サイクル疲労及び延性破壊に対する評価法の整備を進め、文献調査および数値解析を実施して、小規模降伏条件を逸脱したときの破壊力学的手法、及びその簡易的手法の調査、検証を実施した。これらの知見をまとめてJ積分範囲ΔJを用いた亀裂進展評価法ガイドライン(案)を作成した。今年度の成果は以下のとおりである。
(1)参照応力評価式の調査および整備
J積分簡易評価法として参照応力法に注目し、J積分の予測精度を評価するため、手法整備検討WGと数値解析手法検討WGとが連携して、代表的な構造である表面亀裂付平板、周方向表面亀裂付円筒および軸方向表面亀裂付円筒について、べき乗塑性体、ステンレス鋼および炭素鋼に対するSwift式等様々な構成式の下でのJ積分のFEM解析を実施した。文献調査とFEM解析に基づいてJ積分範囲の簡易評価法を整備した。低サイクル領域における表面亀裂の進展に関する文献による試験結果のトレース評価を実施することで亀裂進展評価の精度を確認し、一部のデータでは試験と評価で乖離があるものの、小規模降伏補正や亀裂開閉口の考慮など適切な評価条件を設定することで比較的よく一致することを確認した。
(2)小規模降伏条件を逸脱したときの破壊力学的手法の調査と数値解析による検証
前年度に引続き、複数の機関でステンレス鋼の1TCT試験片のモードI繰返し負荷試験及び周方向貫通亀裂付配管の繰返し負荷試験に対する解析を実施した。周方向貫通亀裂付配管の繰返し負荷解析に関しては、モデル化方法の見直しを行いつつ亀裂進展のトレース解析を継続実施し、得られたda/dN-ΔJ関係が試験と概ね一致した。X-FEMを用いた解析も実施し、汎用プログラムによる解析と同様な評価が可能であることがわかった。
手法整備検討WGの参照応力評価式整備に協力するため、平板および円筒の代表的な亀裂に対するJ積分解析を実施した。
(3)J積分範囲ΔJを用いた亀裂進展評価法ガイドライン(案)
上記の検討結果に基づいてJSME規格を参考としてガイドライン(案)を作成した。J積分範囲の評価は参照応力法に基づく簡易評価と、数値解析に基づく詳細評価の二段構成とした。
2.5 BDBE小委員会「設計基準外事象の評価と対策に関する調査研究小委員会(BDBE小委員会)」
「設計基準外事象(BDBE)」に対する安全性向上に向けた構造・材料分野の考え方を整理し、コンセンサスを醸成することと、それを実現するための新しい技術を調査検討することを目的として活動している。最終的には、「設計基準外事象(BDBE)」対する評価と対策に関するガイドラインを提案することを目指して、以下の課題に取り組んでいる。
(1)BDBEに対する考え方と要求性能
(2)BDBE条件下における破損モードの解明と評価法の提案
(3)破局的破壊の防止と破損後の影響緩和
(4)国際展開
委員会の開催頻度は3回/年程度とし、文部科学省原子力システム研究開発事業の進捗報告と評価、及び各課題に精通した方の講演により調査を行っている。
主査:笠原直人(東京大学) 副主査:望月正人(大阪大学)
幹事:堂崎浩二(原子力安全推進協会)、宮崎克雅(日立製作所)
委員:中立委員11名・委員8名 事務局:3名
2021年度は、文部科学省原子力システム研究開発事業「原子炉構造レジリエンスを向上させる破損の拡大抑制技術の開発」の外部評価と、その成果の一般化と社会実装を目的とした以下の活動を行った。
(1)BDBEに対する考え方と要求性能
軽水炉における検討事例、化学プラント等における検討事例の調査を行い、設計基準内事象と設計想定を超える事象との相違点の整理を行った。これに基づき、ガイドラインの名称を「設計想定を超える事象(Beyond Design Basis Events)に対する原子炉構造レジリエンス向上ガイドライン」と改め、2階層からなる目次構成を検討した。
(2)BDBE条件下における破損モードの解明と評価法の提案
原子力システム事業「原子炉構造レジリエンスを向上させる破損の拡大抑制技術の開発」の2021年度成果について評価し、次年度の進め方についての助言を行った。
(3)国際展開
BDBEに関しては、IAEAやCNSCの関心が高く原子力構造力学会議(SMiRT)を介して意見交換を行っている。このためSMiRT関係者との合同幹事会を開催し、土木分野におけるBDBEの考え方を学んだ。
2.6 CAF小委員会「塑性拘束効果を考慮した破壊評価基準の確立検討小委員会」
本小委員会では、実構造物の健全性評価で重要となるDBTT(延性-脆性遷移温度)領域において、延性亀裂成長を伴う劈開破壊が生ずる破壊モードに対し、塑性拘束度を考慮した破壊評価手法の整備を検討する。
本小委員会の活動計画を以下のように策定し、2021年度は主に(2)、 (3)について活動を行った。また、(1)の調査についても、昨年度から継続して行った。
(1)塑性拘束効果を考慮した破壊評価手法の調査
(2)塑性拘束度の異なる破壊試験と破壊評価の適用性の検討
(3)破壊評価手法の整備とガイドライン案の検討
(4)国内外機関との情報交換・情報収集
2021年度は、計4回の小委員会と7回の合同WG(手法検討WG + 解析WG)を開催した。活動内容と主な成果は以下の通りである。
(1)塑性拘束効果を考慮した破壊評価手法の調査
塑性拘束効果を考慮した脆性、延性、及び遷移温度領域での破壊評価法に関し、2020年度に引き続き文献調査を継続的に推進した。昨年度同様、脆性破壊、延性破壊、延性亀裂発生・成長を伴う脆性破壊のそれぞれの破壊モードに分類して、キーワードごとに得られた知見を整理した。来年度はこれまでの調査で得られた知見を整理する。
(2)塑性拘束度の異なる破壊試験と破壊評価の適用性の検討
亀裂深さ/厚さ比が1/10の半だ円表面亀裂付き平板試験体に対し、脆性破壊試験温度(T1:-120℃)で2体、及び延性-脆性破壊温度(T2:-80℃)で3体の引張荷重による破壊試験を実施した。実測の荷重P-COD関係に弾性範囲でも大きな非線形的挙動が見られたため、冷却時の再現試験を実施した結果、COD出力に大きな温度ドリフトが発生していることがわかった。このため、温度ドリフトの影響を受けていないストローク変位を用いて平板試験体の破壊時KJを算出したところ、その値はGTNモデルとBereminモデルのカップリングモデルで平板モデルの破壊確率を予測した95%信頼区間内にあった。ただし、ストローク変位は試験機チャック部の治具変形を含み、数値解析結果の変位との直接的な比較ができないため、2022年度に温度ドリフト抑制下の-120℃での追加の破壊試験を予定する。
また、拘束効果を考慮した破壊評価法のガイドライン策定に向けて、C(T)、SE(B)、及び表面亀裂付き平板試験体に対し、参加機関間でのベンチマーク解析を行った。その結果、ワイブル形状パラメータmを固定した場合、各試験片において参加機関でほぼ等しいσwが得られた。塑性拘束度の異なる2種類のコンパクト試験片の破壊試験結果からTSM(Toughness Scaling Model:拘束の小さい靭性試験片の破壊靭性を小規模降伏条件下の拘束の大きい靭性試験片破壊靭性に換算する方法)によりmを決定する手順では、複数の機関でほぼ同じmが得られたが、一部の機関では異なる結果が得られた。また、表面亀裂付き平板試験片の破壊予測結果にも機関による差が見られたため、2022年度もベンチマーク解析を継続して実施する。
(3) 破壊評価手法の整備とガイドライン案の検討
原子炉圧力容器(RV)の塑性拘束を考慮した破壊評価を行うため、厳しい4種類のPTS過渡事象を想定してRVのKJ-σw関係を求めた。塑性拘束効果を簡便に評価できるよう補正係数χ(破壊靭性試験片と等価なワイブル応力レベルでRV のK Jを補正する係数)を導入し、m及び降伏比等多軸度に影響する因子をパラメータとしたlook-upテーブル作成のため、単軸負荷平板モデルに対するKJ-σw関係を求め、RVモデルよりも拘束効果を小さめに即ち安全側に評価することを確認した。さらに、上記検討結果を反映し、RV母材を対象として塑性拘束を考慮した破壊評価手法ガイドライン(GL)案のフレームを作成した。GL案は、上記の補正係数χを使用した簡易評価法と、数値解析により直接的に塑性拘束を考慮する詳細評価法を用意している。2022年度は、単軸負荷平板モデルを用いて、m及び降伏比等をパラメータとした解析を実施し、χのlook-upテーブルを含むGL案を完成させる。
2.7 DHI小委員会 「デジタル打音検査技術の高度情報化に関する調査研究小委員会」
原子力発電所の高経年化が進み、設備保全の観点から配管・アンカー等の溶接部・接合部の構造健全性を簡便に診断する検査技術が望まれている。一方で情報通信技術の発展と普及に伴い、各種センサー装置・計算機シミュレーション・人工知能などの先進技術が産業界において積極的に利活用されており、既存の検査技術との融合が期待されている。
2019年度に活動を開始したDHI小委員会では、新しい検査技術としてデジタル打音検査技術に着目し、これを先進的情報通信技術と統合することにより点検員の技量・経験に依存せず定量的・客観的な判断を可能とすることを目的とした調査研究を行ってきた。また、当該検査技術の普及を促すため、デジタル打音検査技術による基礎ボルト検査方法、金属/コンクリート間の界面状態検査方法に関するガイドライン案の作成にも取り組んでいる。
活動3年目となる2021年度は、以下の活動を行った。
(1)デジタル打音検査技術の現状と課題の整理
デジタル打音検査技術のガイドライン化に向けた検討を継続して行った。
(2)実地事例の収集と評価
溶接分野・道路・橋梁・トンネル等における事例収集を継続して行った。
(3)デジタル打音検査シミュレーションのデータベース化と人工知能による学習の検討
機械学習予測精度およびデータ量とその質に関する知見蓄積を継続して行った。
2.8 DFC3小委員会「設計疲労線図の策定に係る調査(Phase III)」
大気中設計疲労線図の精緻化の検討を行い、新しい合理的な設計疲労線図を構築するべく、原子力研究委員会にDFC(Design Fatigue Curve)小委員会を設置し(DFC小委員会が2011年8月~2013年3月、DFC2小委員会が2013年4月~2016年3月)、新しい設計疲労線図を開発した。DFC2小委員会での成果として、表面粗さ試験結果に対する検討成果からは、表面仕上げ効果係数Ksfを設定することができたが、低~中強度域におけるばらつきが大きいことがわかり、データの拡充が必要であることがわかった。また、疲労強度減少係数と平均応力補正を考慮する順番で設計疲労線図は過度に安全側になる場合があり、これらの考慮の順番を実験により確認する必要があることもわかった
そこで、DFC3小委員会(2019年4月~2021年3月)では疲労線図に与える影響因子である表面仕上げに対し、機械加工による表面仕上げが疲労強度に与える影響について評価手法の精緻化を検討した。また、疲労強度減少係数と平均応力補正の考慮の順番を平滑材に着目して検討した。ここで、炭素鋼STPT370と低合金鋼SQV2A を対象に機械加工表面仕上げ影響試験、並びに疲労強度減少係数及び平均応力補正の影響試験が別途実施され、その試験結果に基づき検討を実施した。
2020年度の成果を含むDFC3小委員会の成果は以下の通りである。
(1)機械加工表面仕上げ影響試験の評価
炭素鋼の断面直径8 mm、低合金鋼の断面直径8 mm及び20 mmの研磨材、Rz = 6.3, 25及び50 μmの表面調査用試験片を対象に、① X線残留応力測定、② 表面粗さ測定、③ 表面プロファイル測定、④ 表面観察、⑤ 断面硬さ分布測定、⑥ 走査型電子顕微鏡(SEM)による断面微細組織観察および⑦ 電子線後方散乱回折(EBSD)による断面分析を実施した。
炭素鋼STPT370について機械加工表面仕上げの影響を調べた結果、目標表面粗さRz = 6.3 μmの試験では疲労強度の明瞭な低下はみられず、これは、Rz = 6.3 μmの加工痕は亀裂発生に対して感度が低く、したがって疲労強度の低下がみられなかったと考えられる。DFC小委員会提案の最適疲労線図に基づき表面仕上げ効果係数Ksfを算出すると、Ksfは疲労寿命依存性を示し、寿命が長くなるにつれて大きくなった。疲労試験は2機関で実施し1本の曲線(回帰式)で研磨材の試験結果を精度よくフィッティングできた。また、表面粗さの影響を受けないと結論したRz = 6.3 μmの試験片を研磨材と同一のひずみ振幅で試験したところ、寿命はほぼ研磨材と一致したことから、回帰式の信頼性は高い。したがって、炭素鋼のKsf算出の基準として回帰式を提案した。
低合金鋼SQV2Aについて機械加工表面仕上げの影響を調べた結果、炭素鋼と同様に、Ksf算出の基準として研磨材に対する回帰式が有効であることを確認した。また、炭素鋼とは異なり、低合金鋼ではKsfの疲労寿命依存性は明確でなかった。
(2)疲労強度減少係数及び平均応力補正の関係性評価
切欠きに平均応力が加わった場合の応力集中部のひずみ挙動を調べるための平板切欠き試験片(低合金鋼SQV2A)を用いた繰返し負荷試験の結果から、弾塑性解析と試験によって確認されたひずみ範囲と荷重の挙動は、比較的よい一致を示し、ひずみ範囲が安定した10サイクル目では試験結果は解析結果の延長上に位置した。
炭素鋼STPT370について、平均応力の影響を調べるために、ひずみ比Rε = 0、0.2および0.6のひずみ制御試験を実施した。すべての試験で、制御ひずみの上限は降伏ひずみ (0.11 %) を超えており、平均応力は試験開始直後から緩和した。Rε = 0および0.2の試験は目標疲労寿命を104~106サイクルの範囲とした比較的高ひずみ振幅で試験を実施したため、平均応力は疲労試験中にほとんど緩和した。このため、疲労寿命はひずみ比依存性を示さず、完全両振り試験 (ひずみ比Rε = −1) とほぼ一致した。一方、Rε =0.6の試験では、平均応力の緩和量もRε = 0および0.2の場合に比べて少なかった。このため、疲労強度はRε= −1のそれよりも低下した。
低合金鋼SQV2Aについて、平均応力の影響を調べるために、ひずみ比Rεをパラメータとした試験が実施された。高ひずみ範囲条件では、ひずみ比Rεによらずシェイクダウンが生じて、ほぼBFCと一致していた。一方、低ひずみ範囲条件では平均応力が残存し、ひずみ比Rεが大きいほど疲労強度が低下する傾向となった。
2.9 FQA3小委員会幹事会「Q&A方式による疲労知識の体系化に関する調査研究(その3)」FQA3小委員会については、2018年度に委員会としての活動を終了しているが、FQA3の成果として取り纏めた「過去の疲労小委員会の成果」「疲労に関するQ&A集」「疲労に関する重要知識」を、溶接協会のHPで「疲労ナレッジプラットフォーム」として公開している。この「疲労ナレッジプラットフォーム」の維持、管理と最新情報の反映を目的としてFQA3幹事会の活動を継続している。
幹事会はおよそ2ヶ月に1回の頻度で開催しており、今年度の活動状況は以下の通りである。
(1) 過去の疲労小委員会の成果 について
これまでの成果を纏め、7/9(金)に第55回原子力研究委員会シンポジウムとして講演会を実施した。
また、昨年度、「設計疲労線図の策定に係る調査(Phase Ⅲ)」(DFC3小委員会) が終了したことから、学会発表などを積極的に行った後、2023年度末までに疲労ナレッジプラットフォームへ掲載することを検討している。メーカからの若手参加者を中心に、疲労小委員会の成果として取り纏める方針で活動を推進した。
(2) 疲労に関するQ&A集 について
予定していたQAシートがほぼ完成状態となった。今後、既に公開済みのQAシートとの相互参照関係を整理し、HPでの公開を進めている。また、完成したQAシートについては、公開化を推進した。
(3) 疲労に関する重要知識
今年度の新たな成果はないが、7月に実施したシンポジウムのテキストは疲労に関する重要知識の一つであり、公開可能な時期になれば、HPでの公開を進める。
2.10 WES1112原案作成委員会「金属材料の超音波疲労試験方法」
構造用鋼の多くは、繰返し数が106~107サイクル程度でS-N曲線上に水平部が現れ、このときの応力振幅を疲労限度という。機器・構造物の設計に際しては、適切な裕度を見込んだ上で疲労限度以上の繰返し応力振幅が作用しないよう考慮されている。しかしながら近年、クロムモリブデン鋼、軸受鋼などの高強度鋼においては、107サイクル以上の高サイクル域で、疲労限度以下の応力振幅でも材料内部を起点とした疲労破壊が生じ得ることが明らかとなった。
このような中、平成12年~平成23年に日本溶接協会原子力研究委員会に「原子力機器用構造材の高サイクル疲労評価研究:GCF」、「電力設備材料の疲労強度特性評価研究:GCF2」および「超高サイクル疲労(GCF)評価に関する研究(PhaseⅠ):GCF3」小委員会が設置され、発電プラントの主要材料であるオーステナイト系ステンレス鋼、炭素鋼および低合金鋼を用いた高サイクル疲労試験が実施された。108サイクルを越える超高サイクル域での疲労試験データを拡充することは重要な課題であるが、電気油圧式疲労試験機、回転曲げ疲労試験機などを用いた試験では多大な試験時間を要し、108サイクル程度が限界であった。しかし、試験片の共振を利用して疲労試験を行えば、超音波領域の20 kHz程度で繰返し荷重を与えることができ、109サイクルの疲労(Giga Cycle Fatigue: GCF)試験を実施することが可能である。この方法は「超音波疲労試験」と呼ばれ、GCF2およびGCF3小委員会で採用されている。しかし、超音波疲労試験の実施には多くのノウハウがあり、限られた数の研究機関での採用に留まっていた。
GCF2およびGCF3小委員会活動で培われた超音波疲労試験の技術を日本溶接協会規格(WES)として発行することは、超高サイクル域での疲労試験データの拡充を大きく促進させることになり極めて有用である。本小委員会の目的は、超音波疲労試験を精度良く実施するためのWES規格の原案を作成することである。
・期間:2021年9月~2022年3月
・委員長:小川武史(青山学院大学 客員教授)
・委 員:10機関、11名
本委員会で作成された原案は、2017年にWES1112として制定された。WES1112は、徐々に利用が拡大しており、2018年には英訳版の発行を行い、世界で唯一の超音波疲労試験規格として注目されている。2021年度の活動では、改訂版の原案作成を行った。修正内容は、二重規定の誤解を与える表現の修正、その他、用語の修正に加えて、英訳版の名称を修正した。