なぜ溶接要員認証制度をアジアに展開するのか

 品質管理に関する規格として世界的に普及しているISO 9000fでは、「溶接は、その結果が後工程で実施される検査・試験によって、要求された品質基準が満たされているかどうかを十分に検証できない工程」とされ、「特殊工程」と位置づけられています。そして、この特殊工程では、従事する要員の適格性の確認が必要で、特に、ISO 3834 「溶接の品質要求事項-金属材料の融接」で求められている溶接品質保証のためには、認証された溶接管理技術者による溶接品質管理が必要です。従って、ISOによる品質管理を行っている企業では、溶接管理技術者の位置づけが重要になってきています。

 一方、WTO(世界貿易機構)では、貿易に際して国際規格、あるいは国際規格と整合化した規格の適用を推奨していることから、世界の鉄鋼の半分以上を加工するアジア諸国でもISOの品質管理手法が広まりつつあり、溶接要員の認証の重要性が認識されています。さらに、アジア溶接連盟(AWF)の憲章にあるように、溶接技術者の不足や各国・地域間にある技術格差を解消するための対応策として、溶接管理技術者のアジアで共通な認証制度への強いニーズがあります。

 また、国際活動委員会が2004年に行った日本溶接協会会員企業へのアンケートでは、アジアで共通の認証制度が必要であると指摘されました。溶接技術に関して日本と同じレベルの知識教育を受け、同じレベルの資格を有する技術者が、アジアのどの国・地域にもいるということは、日本の「ものづくり」技術を展開し、国際競争力を高めようとする日本企業にとって、日本の教育・認証制度は非常に有益なものになると考えています。

 このような背景から、国際活動委員会は溶接管理技術者認証委員会と協力し、日本で40年以上に亘って実績のあるJIS Z 3410 / WES 8103の溶接管理技術者認証制度をベースにした認証制度を各国・地域に導入・定着させるための活動を始めました。2006年にはタイで初めての認証者が出ており、以後、フィリピンインドネシアマレーシアシンガポールにも認証制度を展開し、定着させるための活動を行っています。 そして2017年からは台湾ミヤンマーで活動を開始します。




 溶接管理技術者認証制度のアジア展開のステップ

 溶接管理技術者認証制度を運営するには、技術者への教育(研修会)、評価試験、認証、登録管理(サーベイランス・再認証)などの業務が必要ですが、これらの実務を日本溶接協会がアジアで半永久的に実施することはできません。
 
 認証制度のアジア展開の考え方の基本は、現地の溶接機関(カウンターパート)が自力で溶接技術者を育て、認証するということを「事業」として継続的に実施できるように、日本溶接協会が協力するというものです。そして将来的には、この認証制度をアジア共通の認証制度として現地機関が運用できるようになることが、日本企業やアジア溶接連盟の要望に応えるものであると考えています。

 

 導入の初期段階では、研修会で日本人講師が講義を行い、またOJT方式で現地カウンターパートに認証制度の運営ノウハウを伝授していますが、将来的には導入国・地域の講師が母国語のテキストを用いて研修会を開催し、現地の認証機関が事業を継続して行うという形が最も望ましい形といえます。


 アジアの溶接協会との協力協定

 制度の導入をスムーズに行うため、国際活動委員会が中心となり、現地カウンターパートとの役割などを決めた「協力協定」を締結しています。アジア溶接連盟での活動や、交流を通じて得られた信頼関係を背景に、これまでに、タイ溶接協会(TWS)、フィリピン溶接協会(PWS)、インドネシア溶接協会(IWS)及びマレーシア材料学会とマレーシア溶接接合協会の共同体(IMM+MWJS)との間で溶接管理技術者の認証制度導入に関する協力協定(Cooperation Agreement)を締結してから認証事業の活動を行っています。右の写真は、(独)国際協力機構(JICA)中部国際センターの協力により、バンコク及びマニラのJICA事務所を国際回線で結ぶ3元テレビ会議システムを使って、TWS及びPWSとの協定調印式のもようです。

 これらの協力協定締結は、それまでの人的交流を意図した協定とは異なり、日本溶接協会の溶接管理技術者認証制度の教育や評価試験、認証のノウハウを提供しようとするものです。単なるカウンターパートとの関係維持という考えを変え、整合化された一つの基準(共通のアジア標準)によってアジアの溶接要員を育成し、日本のリーダーシップによってアジア全体を一つにまとめたいとする強い意志から生まれたものです。

 協力協定の内容は、現地のカウンターパートの実情に合わせ、それぞれ若干異なっていますが、協定書の基本とするところは、研修会や評価試験、認証の実務はカウンターパートが主体的に行うところにあります。日本溶接協会の役割は、教育の内容やレベル、認証の基準を各実施機関間で同じようにすることであり、認証事業を公正・公平に行って信頼性を高めるようにカウンターパートを指導することです。

<日本溶接協会の役割>
 1. 認証、試験、教育等の運営のための要領書の支給
 2. 研修会で使用する教材の支給
 3. 試験のレベルを共通化するために、評価試験問題の作成と支給
 4. カウンターパートが採点した評価試験結果の最終承認
 5. 研修会の講師が不十分なカウンターパートに対しては、初期段階の当面の間は日本から講師を派遣

 認証の等級

 認証の規範となる規格はJIS Z 3410(ISO 14731)とWES8103であり、日本と全く同一の基準で評価試験が行われ、下表のように3つの等級で認証されます。
 
 左の写真はインドネシアで発行された「適格性証明書」の例です。カウンターパートである現地の溶接協会(インドネシア溶接協会)と日本溶接協会のロゴマークが示され、両協会の会長名で署名された証明書です。

SWE (Senior Welding Engineer) 溶接管理技術者特別級に相当
WE (Welding Engineer) 溶接管理技術者1級に相当
AWE (Associate Welding Engineer) 溶接管理技術者2級に相当





                          

アジアにおける溶接管理技術者の認証活動